中東の今に生きる 古代からの少数宗教

イスラーム教だけではないイスラーム世界

中東は多宗教地域だ

シリア、イラク、イラン、アフガニスタンといった中東地域は、一般的にイスラーム教一色と思われがちだが、じつは多くの少数宗教が混在している、多宗教の地域だ。なかには今でも紀元前の古語を話し、イスラーム教以前の文化を連綿と残している宗派もある。かれらは過去の歴史上の存在ではなく今を生きている。
 
たとえばヤズィード教はイラン、イラクの北部やシリアなどに数十万人いて、その教義はゾロアスター教や地中海起源といわれるミトラ教、スーフィズムなどの影響がみられる。
また、マンダ教徒はイラクに数万人おり、グノーシス主義やマニ教の名残がある。ドゥルーズ教はレバノンに200万人近くもいて、新プラトン主義、ピタゴラス主義といったヘレニズム時代の哲学を吸収したイスラーム教といわれている。
 

中東の少数宗教からの恩恵

こうした話は私たちにとって古い歴史の話で、しかも中東という、地理的にも関わりの薄い遠いところのことだから、自分たちには直接関係ないと思われるかもしれない。
しかし、禅やマインドフルネス、イメージの力などが見直されている今、少数宗教に伝わる古くからの教えやメソッドなどの意識テクノロジーにも、わたしたち現代人が恩恵を受けるものが数多く秘められていると思っている。
 
ぼくが、これらの宗派の教義や系譜の他にとくに興味を持っているのは、かれらが口にする古語の祈りの力、儀礼、それが身体に及ぼす影響、いまだ解き明かされていない象徴の意味などなどだ。これらの宗教はほとんど研究されていないというが、ここには多くの宝の山が隠されているように思えてならない。

白人の祖の末裔と出会う

以前ぼくは、アフガニスタンの北部とパキスタンの山岳地帯にある村で、金髪で青い目をした人たちに出会ったことがある。かれらはイスラーム世界の住人だが、どこか異質な雰囲気があったことを思い出す。
当初ぼくは、かれらはアレクサンドロス大王の東方遠征の時の子孫かと思っていた。ちなみにこの大王は子どものころにアリストテレスから学問を学んでいた。しかし金髪碧眼の人たちがここにいるのはもっとずっと前の話で、 ある学説によると、なんとかれらは「白人の祖」の末裔だという。
これは言語学的にも宗教民族学的にも信憑性が高く、またDNA判定もかなり進んでいるらしい。この白人の祖先たちは紀元前3000年頃から千年近く中央アジアに住んでおり、その後移動しヨーロッパやイランへ分散したが、このアフガニスタンやパキスタンの北部に、まるでタイムカプセルに閉じ込められたかのように、そのままの姿を保持していたらしいのだ。
その学説がほんとうだとすると、ぼくは壮大な歴史の生き証人たちを目にした事になる。中東は長い歴史が今に息づいている、魅惑的なところだ。 

禅とイスラーム神秘主義

日本に2000年に来日したイランのハタミ大統領は記念公演でこう述べていた。
「言葉に絶対の信をおく西洋に対し、日本の禅やイランのイスラーム神秘主義は、沈黙から多様な示唆と寓意を汲み取ろうとします。相手の言うことにまず耳を傾け、相手の立場を重んじるのがわたしたちの風土的特性です。禅とイスラームには底流において相通ずる精神と思想が流れています」
 
政治的には日本とイランはいろいろとあるだろうが、一国の長である大統領が、日本とイスラームに通低した精神文化があると語っているのはとても興味深い。
 
じつはここ数年、これらの少数宗教は、ISやタリバンの活動によって壊滅的な打撃を受けている。イスラーム原理主義にとってかれらは異端宗教徒なのだ。現在進行形で貴重な文化がおどろく速さで消滅しかけているという。この胸の痛くなるような話については、またあらためて書きたいと思う。
 
アウェアネスアート®研究所 主宰 新海正彦
 
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