コンテクスト プロセス コンテンツ

吉福伸逸さんの考えるセラピーの基本的な考え方

セラピーを3つの角度から考える

吉福さんはワークショップの中でさまざまな技法、たとえばゲシュタルト療法、認知行動療法、イメージ療法、ソマティック心理学、ブレスワーク、瞑想など、必要に応じて使っていました。

 

ワークショップでは時として、「これはいったいどの手法がベースになっているのだろう?」と、すぐにはわからないワークもありました。

 

吉福さんはワークの技法について驚くほど詳しいのですが、それを説明することはほとんどありませんでした。ワークで大切なことは技法ではなく「コンテクスト」だと考えていたからです。

 

この、「コンテクスト」とは何か。

 

トランスパーソナル心理学では基本的にセラピーを、「コンテクスト/プロセス/コンテンツ(CPC)」という3つの観点で考えています。

これはトランスパーソナル心理学の理論家であるフランシス・ヴォーンが提唱した考え方です。

 

吉福さんは1980年代に、このトランスパーソナル心理学を日本に導入した当人なのですが、導入後、みずからの体験から得た知見で解釈しなおしていました。

基本的にはこのフランシス・ヴォーンの定義に準じていますが、自分自身のさまざまな体験からこの3つの観点をさらに深め、なおかつシンプルなものにしていったようです。

 

以下は吉福さんが語っていた「コンテクスト/プロセス/コンテンツ(CPC)」についてです。なるべく彼の言葉を残しながら、ぼくなりに整理してまとめてみました。

 

フランシス・ヴォーンの定義についてお知りになりたい方は、「トランスパーソナル宣言」(春秋社)をご覧ください。

 

 

吉福さんの考えるCPC

セラピストとクライアントの間に起こることを単純化して「コンテクスト/プロセス/コンテンツ」という3つに分けて考える。

 

「コンテクスト」というのは文脈のことで、セラピストがセラピーの場に提供するもの。

 

この文脈には、その人の価値観、世界観、経験、死生観などが含まれている。つまりセラピストの存在そのものがコンテクストを作っている。

 

セラピストがセラピーの場に「コンテクスト」を提供することで、その場の気配、雰囲気が醸し出される。

 

つぎに「プロセス」のまえに「コンテンツ」の説明を先にすると、「コンテンツ」は内容のことで、クライアントやワーク参加者の、心身の悩み事や心身の不調などを指す。それらは何らかの理由で必要なために起こっている現象と考えられる。

 

そして「プロセス」は、【技法の進行】と【過程】という二つの意味で使われている。セラピーは基本的にセラピストと、クライアントやワーク参加者が、「どういうことをやりましょうか」と相談しながら合意してすすめていく。これが【技法の進行】という意味での「プロセス」。

 

もう一つの【過程】という意味での「プロセス」は、クライアントやワーク参加者の心身に起こっていることが変化していく過程のこと。当人の心身に起こっていることを十分に体験してもらい、そこを通過しきるようセラピストが支えていく。

 

すると結果としてクライアントは、当人にとって最も妥当なところに着地する。

コンテクストの提供のみが唯一できること

吉福さんは「コンテクスト/プロセス/コンテンツ」について、以下のような話をしていました。

 

「コンテクスト、プロセス、コンテンツの中で、コンテクストを提供することが唯一セラピストの出来る仕事です。提供してるのはテクニックでも経験でもなんでもない。自分自身を提供している。

 

つまり自分自身の存在、自分自身の人とは何か、自分は誰か、ということを提供しているんです。そういうふうにしてみていくと、セラピストはいったい何をすべきで、何をするとまずいかということが明確にわかるはず。われわれには何も出来ない。唯一できるのは文脈の提供である。

 

適切な文脈さえ提供され、的確なプロセスが行われていれば、内容は勝手にクライアントが提供してくれて、セラピストは実際にはまったく手を出さないままということも起こる。

セラピストである僕にはなにも出来ない。僕をそのままどうぞと提供しているだけ。」

 

●コンテクストを深め拡げておくこと

これは極端な言い方に聴こえますが、セラピーの真髄をついていると思います。もし自分自身と深く取り組む作業を十分にしていないセラピストが「コンテクスト」を提供した場合、セラピーの場ではそのセラピストの限界がクライアントにも限界を提供してしまうことになります。

 

クライアントやワーク参加者が、恐怖感や拒絶感なしに、でき得るかぎり自分の内面を出し切り、それに触れ、体験できるよう、自身の「コンテクスト」を深め拡げておくということになります。

 

だからセラピストの役割は、参加が何が起こっていようと恐怖感や拒絶感なしに内面に触れていくことができるような状況を作る。起こっていることを本人に十分に体験させることであって、それゆえ自身の「コンテクスト」が問われることになるというのです。

 

 

●コンテクストの重要性

ぼくは吉福さんの晩年、吉福ワークのアシスタントをさせてもらっていましたが、吉福さんがどう見立てているのか、なぜそのワークをやっているのかなど質問しても説明してくれることはほとんどありませんでした。

 

「自分で考えなさい。わかるでしょ?」

概念で理解してほしくない。概念で理解してもセラピーの現場では使えない、というのが理由でした。

 

「コンテクスト/プロセス/コンテンツ」の意味を十分に理解し、場に応じて必要なことだけを行い不要なことはしない。

 

吉福さんは、みずからの在り様そのものでそういうコンテクストの重要性をアシスタントや参加者たちに示してくれていたように思います。

 

 

アウェアネスアート®研究所 主宰  新海正彦